日付:2019年04月18日
自閉スペクトラム症やADHD、学習障害(LD)、知的能力障害があるお子さまは、昼間の尿モレや便のおもらしを伴いやすい傾向があります。
昭和大学藤が丘病院小児科ではこれら特性を持った多くのお子さんを専門に治療していますが、腎臓や膀胱など、また尿や血液などに明らかな異常がない場合が大半です。
では、なぜ発達障害を合併したお子さんにお漏らし多いのでしょうか。
これらの大脳機能の局在部位が、自閉スペクトラム症やADHDの脳の障害部位と同じ、もしくは近いために尿トラブルに影響がおよんでいることが考えられています。
特にADHDの子どもは健常の子どもに比べて前頭葉-線条体系に異常がみられることが多いことが知られています。これらは近年の画像検査(fMRI)の進歩により明らかになってきました。
部屋が寒いと、手足が氷のようにとても冷たくなったり、逆に暑い環境では、汗があまり出ずに、体温が上昇し、体が真っ赤になって、ほってたりすることが良くあります。
体温調節は自律神経作用の最も大切な働きの一部で、おしっこをためるやおしっこを出す機能も、自律神経の相互作用によっても調節されているため、自律神経の働きが悪いと尿をためたり出したりすることが上手に出来ずに、尿モレや頻尿の原因となります。
これは大脳の扁桃体の異常に起因することがあります。何かにひとつのことに集中すると、他の意識や行為に注意が向かなくなる特徴にあります。
これらのお子さまでは、あまりにも一つのことに集中すると、他のことに意識が移れなかったり切り替えができずに、トイレに行かない「こだわり」になることもあります。逆に、集中の度合いが大きいため、他の対象や刺激にも転導する(つながりなく転々と移っていく)こともあります。
また、ADHDのお子さまではトイレに行くこと自体忘れてしまうこともあります。すなわち、尿が膀胱に溜まって排尿刺激が脳に伝達されても、何か他のことに意識が集中しすぎてトイレに意識が向かず、尿漏れをしてしまうのです。これらは、過集中といって、自閉スペクトラム症やAHDHのお子さまに比較的よくみられる症状のひとつです。
この伝達物質が膀胱の壁を形成している排尿筋に直接作用して、排尿筋過活動=過活動膀胱の原因になっていると考えられています。コンサータやビバンセなどの中枢神経刺激薬が、ADHDの子どもの尿もれを改善することから、この推測はある程度正しいと考えています。
昭和大学藤が丘小児科の尿トラブル外来でも、コンサータやビバンセなどの中枢神経刺激薬、ストラテラやインチュニブなどの非中枢神経刺激薬の投薬も併用して行っています。
特に自閉スペクトラム症のお子さまによくみられる傾向です。大量の水分の一気飲みにより、尿量が急激に増加し、結果的に頻尿になります。特に、本人から言い出せないタイプのお子さまでは、一気飲みしたしばらく後に、お漏らしになってしまいます。
発達の特性を持つお子さまは、自ら時間を確認して排尿する定時排尿や、排尿中断訓練やバイオフィードバックなど根気がいる治療を継続することは困難なことが多く、周りの人達の正しい理解とサポートが何よりも大切になってきます。
そして、お子様の膀胱充満のサインを周囲の人達で共有して、サインが現れたら積極的にトイレを促すと良いと思います。
もちろん、寒さ対策や食事・飲み物対策も必要になりますので、おもらし対策(日常生活面)を参照にして、生活の一部に組み入れてください。少しづつですが、改善が感じられると思います。
A君:男の子(小学校2年生)
小さい頃から活発で、2歳頃からスーパーなどに行くと、遠くの売り場まで勝手に行ってしまい、何度か迷子になることがありました。3歳から保育園に入園。すぐに友達がたくさん出来ましたが、ブランコなどの順番待ちができず、滑り台などにも横から登って怪我することも多かったそうです。
公文教室では椅子からずり落ちそうに座ることが多く、後ろや隣の友達にしょっちゅうちょっかいを出して、先生に怒られることがよくありました。
年長の秋に、発表会の場所で大量のおもらしをした時に、友達からバカにされたのをきっかけに、近くのモップを振り回し、女の子に怪我をさせてしまい、その後も度々女の子への暴力が出るようになったため、発達外来受診を勧められて、ADHDと診断されました。
トイレトレーニングはなかなか進まず、4歳になってもオムツで過ごしていましたが、個性の範囲と思って様子を診ていました。
小学校に入ってからは、パンツで登校するも、いつもびっしょりと濡れて返ってくることが毎日ありましたが、それでも本人は全く気にせず、放課後も目一杯遊んでいました。
しかし、お漏らしのために、友達にからかわれることも多くなり、お漏らしで皮膚の荒れも目立つことより昭和大学藤が丘病院小児科の尿トラブル外来を受診しました。
お母様は、ADHDの性格せいで、面倒くさくてトイレに行けないため漏らしていると考えていましたが、各種検査を行ったところ、過活動膀胱が主な原因で、ADHDの性質は直接影響していないことがわかりました。
過活動膀胱に対する日常生活指導を行い、尿モレの改善があり、さらに抗コリン薬(ベシケア)を使ったところ、毎日の尿モレが全く出なくなり、トイレでしっかりとおしっこを出すことができるようになりました。
尿モレが治ってからは、先生や親からも怒られる機会がとても少なくなり、本人の表情もとても良くなりました。周囲の友達とも上手に出来る回数が増えてきて、サポートを受けながらも成長していけそうだ、とお母様も喜んでいました。
【小児科専門医・教授の池田裕一からのコメント】
ADHDのお子さんは、過活動膀胱の合併が多いのが特徴です。尿を膀胱にじゅうぶん貯めることができない上に、発達の特性として、不注意や、タイミングが悪いこともあり、適切なタイミングでトイレに行くのが非常に苦手です。
そのため、漏れる(おもらしする)量も多い傾向があります。まずは過活動膀胱の治療をしっかり行いつつ、生活指導全般を見直す必要があります。
Bちゃん:女の子(小学校4年生)
小さい頃からあまり手がかからず、親も「手がかからない子ども」と認識していました。言葉の発達は遅く、3歳までなかなか言葉が出ないことを心配していましたが、近くの小児科医からは様子をみましょうと言われて特に検査を受けませんでした。
健診などで医師に体を診察されるのを極端に嫌がり、その時だけはいつも大暴れで周りを困らすことがありました。
保育園に入ってから、周囲の友達にはあまり関心を示さない一方で、教室に貼ってある世界地図を熱心に眺め、家に帰ってから、ある地域の国名を全て言えて、家族を驚かせたりしました。寝る前や朝起きた時は、必ずぬいぐるみを綺麗に並べないと行動に移せないことがあり、小学校に入ってからは学校に遅れることがしばしばありました。
また、太っているお友達に対して、「太っているね、沢山食べるの?」などと言ってしまいトラブルを起こし始め、授業中も先生の言うことを聞かずにボーとしていることも多くなり、心配になって発達クリニックを受診したところ、自閉スペクトラム症(軽度)の疑いと診断されました。
尿モレは小学校入学時から始まって、徐々に悪化。3年生以降は毎日スカートまで濡らしていました。また、友達からもたびたび指摘を受けるようになり昭和大学藤が丘病院小児科の尿トラブル外来を受診しました。
診察したところ、軽度の過活動膀胱があるものの、症状は軽い割にはお漏らしがひどいため、学校での生活を詳細に聞きました。トイレに行きたい感覚があることがわかりましたが、学校の古いトイレの水の流れる音に非常に敏感で、そのために怖くて行けないことがわかりました。
学校の先生とも相談し、職員室横の新しいトイレだと水の音がないため、スムーズに行けることが分かりました。さらに、病院で診断書を書いて学校に提出し、自由に職員室のトイレに行くようになってからは、学校でのおもらしが全くなくなり、本人も保護者も表情が大変よくなりました。
【小児科専門医・教授の池田裕一からのコメント】
自閉スペクトラム症のお子さんは、尿をしっかりと出すことが苦手な場合が多いです。そのため、たくさんの残尿があり、1回のトイレ排尿では出しきれず、お漏らしをしてしまいます。
尿を出せない、すなわち排尿障害の治療をしっかり行って、正しい姿勢で全部出し切るように指導します。排泄指導だけで困難な場合は、尿をきれいに出せるようなお薬も使うことがあります。
Cさん:女性(16歳、通所施設に通園中)
生後半年頃より、目が合わない、追視をしない、微笑み返しがないなどの症状がありました。
1歳以降も一人遊び、言葉が出ない、周囲に全く意識を払わないなどがあり、3歳の時点で自閉症と診断されました。療育センターで日常生活支援学習を受け、小学校と中学校も支援学級に通っていて、知的レベルは3歳相当と判断されたそうです。
中学校卒業後は近所の通所施設に通っていて、主に祖母さんがCさんの面倒を見ていました。
16歳を過ぎてもトイレでの排尿ができず、おねしょも毎日ありました。日中は毎回オムツに排尿するため、皮膚のかぶれが酷くなり、何とかならないかと通所施設の職員がインターネットで探して昭和大学藤が丘病院小児科の尿トラブル外来を受診しました。
最初に採血や超音波検査などを行おうとしましたが、Cさんの拒否が強く、身体も抑制できないため検査をあきらめ、漢方診断に切り替えました。
体幹はしっかりしていて(実証)、腹直筋の緊張が強く(二本棒)、下肢の筋力が弱いタイプでした。昼間のお漏らしには八味地黄丸が良い適応と考え処方しました。
また、通所施設のスタッフの方と相談して、1日20回の足上げ運動、スクワット運動、バランスボールに座っての作業などを協力して訓練していただき、徐々におもらしは改善。漢方薬の開始6ヶ月後には、自分でトイレに行けるようになってオムツが必要なくなりました。
夜尿症には小建中湯を処方しましたが、漢方が効きにくいタイプなため、抗利尿ホルモン治療(ミニリンメルトOD錠)に切り替え、現在は月に1回〜2回程度のおねしょに減少しました。お漏らしとの家族やスタッフの負担が大幅に低下し、Cちゃんもとっても嬉しそうな表情が印象的でした。
【小児科専門医・教授の池田裕一からのコメント】】
知的障害を伴うお子さんは、尿意(トイレに行きたい感覚)を適切に把握していないことが多いです。尿が膀胱にたまったことがわからず、作業の途中に大量に漏れてしまうことがあります。
そのため、定時排尿用アラームを使ったり、サポート教員やスタッフに排尿の手順や時間をお伝えして、皆で共有しながら少しづつ治していく必要があります。
「昼間の尿モレが治らない」、「自分でトイレに行けないで毎日モレる」、「トイレに行きたい感覚が分からない」、などのお子さんに対する排尿予測デバイス(DFree)を使用した、「排尿自立に向けた取り組み」を開始しています。
排尿予測デバイスとは、下腹部に小さな超音波センセーを貼り付け、膀胱のたまり具合をスマホなどに表示する機器です。
使用経験では、全くトイレに行けなかったお子さんでも、自分でトイレに行ったり、排尿予測デバイスの通知アラームでトイレに自ら行ったりすることができています。ADHDや自閉症や知的発達障害のお子さんのトイレトレーニングの新たな方法として広く使用されることになると思います。
私達のグループの調査からは、発達障害があっても適切に治療すれば、一般児童と同様の治療効果が得られることが分かっています(参考論文のサイト)ので、けっしてあきらめずに治療法を一緒に考えていきましょう。もっと早く受診すればよかったと言われる方が本当に多いので、勇気をもって専門医のもとに受診してください。
3000人以上のおしっこトラブルを抱えた子供達を治療し、20年以上大学病院で子供のおしっこトラブルに関連した診断と治療の開発に情熱を捧げてきた小児科医の目から、正しく偏りなくお届けします。