おしっこトラブルについて

自閉症(ASD)、ADHDとおねしょ(夜尿症)

日付:2019年04月18日

1.自閉症とADHD、知的能力障害と夜尿症の関係

自閉症やADHDのお子さんは、一般的な児童より、おねしょをする頻度が高い傾向にあります。おねしょ(夜尿症)の一般的な頻度は5〜7%程度ですが、発達障害が合併すると10〜15%に増加します。昭和大学北部病院小児科では発達特性を持ったお子さんは各種発達検査、知能検査を実施しつつ、専門の児童心理士とともに診察しています。

では、なぜこのような子供がおねしょをするのでしょうか。小児科専門医・教授が考える原因には以下のものがあります。

  • 原因1:おしっこを出す、おしっこを貯めるといった排尿機能は、前頭前野や前帯状回などの大脳によりコントロールされています。これらの大脳機能の局在部位が、自閉症やADHDの脳の障害部位と同じ、もしくは近いために障害の影響が波及していることが考えられています。これらは近年の画像検査(fMRI)の進歩により明らかになってきました。
  • 原因2:自閉症(ASD)やADHDのお子さんは、自律神経の調整が上手でないこともあげられます。部屋が寒いと、手足が氷のようにとても冷たくなったり、逆に暑い環境では、汗があまり出ずに、体温が上昇し、体が真っ赤になって、ほってたりすることが良くあります。体温調節は自律神経作用の最も大切な働きの一部で、さらに蓄尿や排尿も、自律神経の相互作用によっても調節されているため、自律神経の働きが悪いと尿を貯めたり出したりすることが上手に出来ず夜の膀胱が不安定になり、おねしょをします。
  • 原因3:発達障害を持った子供は、全然お水を飲まなかったり、ある時に急にゴグゴグと一気に大量に水分を取るなど、水分摂取がアンバランスになっていることが多いです。大量の水分の一気飲みにより、尿量が急激に増加し、結果的に頻尿になります。特に、夕方以降の過剰な水分摂取は、就寝後に尿量が増える原因になりおねしょをしてしまいます。
  • 原因4:自閉症のお子さんは感覚鈍麻といって、尿が地肌についても不快に思わない、モレてビショビショでも気にならないなどの特性があるため、不快感から治そう!という気持ちになりにくいのも原因の一つになります。
  • 原因5:ADHDのお子さんは、周囲からの見た自分、自分が周囲にどのように思われているか、などを全く気にしない傾向があります。そのため、宿泊行事でも平気でオムツを持っていったりできるので、おねしょを治そうという意欲が極端に欠けている場合も少なくありません。

昭和大学北部病院小児科のおねしょ外来は、日本で唯一の子どもの発達障害に特化した、おねしょ診療も併設して行なっています。

自閉症(ASD)やADHD、知的能力障害の子どもの尿トラブル(お漏らし、ちびり、おねしょ、頻尿、トイレに行けないなど)に対応した診療を行います。必要に応じて発達障害の診断、治療も並行して行っています。(詳細は昭和大学横浜市北部病院に直接お問い合わせください)。

おねしょの完治が難しいと思われる重度の発達障害の子どもでも、抗利尿ホルモンや抗コリン剤、交感神経刺激剤、漢方薬などを服用すると、かなりの改善が見込まれます。まずは、普段服用している抗ADHD薬や向精神薬などに影響が無いことを確認して、お漏らしの薬を少量から徐々に増量していくことが治療のコツになります。

治療薬の代表はデスモプレシン(ミニリンメルト)です。抗コリン剤で、バップフォーやベシケアがよく使われます。交感神経刺激剤はスピロペント、エブランチル、漢方では子供の体質に応じて、小建中湯、抑肝散などの併用が有効になります。

私達のグループの調査からは、発達障害があっても適切に治療すれば、一般児童と同様の治療効果が得られることが分かっています(参考論文のサイト)。

今までのたくさんの経験からは、ひとつの薬を増量するよりは、お子さんの症状や体質にあった薬を組み合わせ、特に漢方薬を併用すると良い結果がみられる傾向があります。

ドクタープロフィール

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池田裕一
(教授/昭和大学藤が丘病院 小児科)

3000人以上のおしっこトラブルを抱えた子供達を治療し、20年以上大学病院で子供のおしっこトラブルに関連した診断と治療の開発に情熱を捧げてきた小児科医の目から、正しく偏りなくお届けします。