おしっこトラブルについて

おねしょの漢方治療について

日付:2019年04月18日

1.おねしょ治療における漢方薬

夜尿症のお子さまは,自律神経の調節がうまくできません。その原因のひとつに自律神経の不調があります。自律神経とは意識とは直接関係なく自律して指令を出して活動をしている神経系統の呼び名です。熟睡しているような意識の無い状態でも心臓が動いていたり呼吸を続けられるのも自律神経のおかげです。

自律神経には、交感神経と副交感神経の二つがあります。これらは一般に各臓器や機能に対するアクセルとブレーキのような働きをもちます。たとえば心臓に対し交感神経系が働けば心拍数が上がり、副交感神経系が働けば心拍数が下がる、という具合です。主に交感神経は体を活動するのに適す状態にし、副交感神経系は体を休息、回復させるのに適する方向に働きます。

この自律神経の調節が上手くいかない病気(自律神経疾患)には、「起立性調節障害」と「夜尿症」があります。起立性調節障害と夜尿症にはいくつかの類似点があり、症状としては、朝なかなか起きられない、寝ている間に汗をかきにくい,子供なのに冷え性であるなどが挙げられます。原因としては、小児の自律神経機能がまだ不安定で、血圧調節機能が十分作用しないことが考えられています。

これは東洋医学的には、気が不十分で水の流れが滞っている状態と考えます。東洋医学では,体の働きを表わす考え方として「気・血・水(き・けつ・すい)」があります。「」は生命エネルギー、「」は血液、「」は血以外の水分をさします。「血・水」は、「」によって体内を巡ります。気が滞ることを「気滞(きたい)」といい、中でも気力がなくなる「気うつ」と、気が頭に上がってのぼせたりイライラする「気逆(きぎゃく)」とに分けられます。

気が不足すると胃腸虚弱や疲れやすいなどの「気虚(ききょ)」につながります。「」が不足すると「血虚(けっきょ)」、滞ると「お血(おけつ)」といい、生理不順や肌荒れなどにも影響します。「」は、体液や分泌液などで、おしっこも含まれます。

古い中国の小児科学書を調べてみると,夜尿や遺尿のように尿の漏れやすい状態に対する考え方が記されており,ずっと昔から東洋医学による治療が試みられていたことがわかります。東洋医学は2000年以上の歴史をもつ古い時代の医学ですから,西洋医学の概念とは大きく異なります。漢方の特徴は心も含めた体全体のバランスを調整するというところにあります。

2.おねしょの漢方治療とその種類

薬草などの生薬を煎じて飲む漢方は、専門的には湯液(とうえき)療法といい、東洋医学のひとつです。この煎じ薬をフリーズドライ加工したエキス剤が、主に病院での治療に用いられています。東洋医学には「漢方」のほかに「鍼灸」、食事から体を治していく「食養」(薬膳)、「按摩」(マッサージ)、そして「気功」が含まれます。なかでも湯液療法は夜尿症の治療の中心となります。

治療には具体的には下のような処方を用いていきます。

まずは,虚弱で筋肉のしまりが弱いタイプ「腎虚証」は,体を丈夫にすることが夜尿症克服の第一歩となります。そこで、最も多く用いられるのが小建中湯(しょうけんちゅうとう)です。これは桂枝湯(けいしとう)に水あめを加えて甘くしたような処方で、体力をつけながら、さまざまな不快症状を改善していく働きがあります。

また、神経質なタイプには柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、のどが渇いて水を多く飲むようなタイプには白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、手足や腰が冷えるタイプ「虚二三」には苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)なども適応になります。

また、体格がよく、見るからに丈夫そうな子供にも、夜尿症はあります。この場合、麻黄湯(まおうとう)葛根湯(かっこんとう)を用います。膀胱機能の未熟さを改善するために、六味丸(ろくみがん)を処方することもあります。

東洋医学では、膀胱の機能障害は腎虚という言葉で表され、大人では八味丸(はちみがん)の適応症です。しかし子供に八味丸は作用が強すぎ,しばしば胃腸症状が出現するため作用のおだやかな六味丸を出します。

ちなみに、大人にも夜尿はあります。大人の夜尿症にも先に述べたような漢方薬が効果的ですが、泌尿器の機能障害の可能性も高いので、必ず検査を受けて原因を特定してから治療を受けるようにしてください。事故で脊髄(背骨の中にあって脳髄とともに中枢神経系を構成している器官)を損傷した人の遺尿が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で回復のきざしを見せている例もあります。

最後に、漢方薬以外の健康茶や健康食品では、この疾患に特に有効なものがあまりありません。なぜなら,薬効があるものの多くは、薬草類でも医薬品の分類になっているからです。ハーブ類や一部の薬草茶には予防薬程度の働き期待できますが、多くの場合治療には十分とはいえません。とはいえ、これらのもので症状が軽減できれば手軽に使え安全なものなので、試してみる価値はあります。

「食養」としては,体を温める作用のある食事や温かい飲み物を取ることが大切ですし,最近話題になり、欧米では広く使われている西洋オトギリ草,セント・ジョーンズ・ワットなども効果があるといわれています。

ドクタープロフィール

プロフィール画像
池田裕一
(教授/昭和大学藤が丘病院 小児科)

3000人以上のおしっこトラブルを抱えた子供達を治療し、20年以上大学病院で子供のおしっこトラブルに関連した診断と治療の開発に情熱を捧げてきた小児科医の目から、正しく偏りなくお届けします。